キ》―月夜《ツクヨ》)
オ段の仮名にあたる音がア段にあたる音に(白《シロ》―白髭《シラヒゲ》)
[#二字下げ終わり]
 エ段イ段あるいはオ段の仮名にあたる音が二つある場合には、右のごとく転ずるのはその中の一つだけであって、他の一つは転じない。(例えば、「け」に当るのは「気」の音と「祁」の音であるが、カに転ずるのは「気」の音だけで、「祁」の音は転じない。)
 しかし、右のような音のある語は常に複合語において音が転ずるのでもなく、全く転じない語もあって、その間の区別はわからない。想《おも》うにかように転ずるのは、ずっと古い時代に起った音変化の結果かと思われるが、その径路は今明らかでない。奈良朝においても、その結果だけが襲用されたもので多分に形式化したものであったろう。そうして同じ語でもこの例に従わぬ場合も多少見えるのは、このきまりが、奈良朝において既に守られなくなり始めていたことを示すものであろう。
 次に、複合する下の語の語頭音が母音一つから成る音(アイウエオ)である時、その音が上の語の語尾音と合して一音となることがある(荒磯《アライソ》―ありそ[#「り」に傍線]、尾《ヲ》の上《ウヘ》―
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