二つに分けるべきものを一つにしたために、例外としなければならなかったものもあります。例えば、カ行四段動詞の已然形と命令形は、仮名で書けば両方とも同じ「け」でありますけれども、昔の万葉仮名では、別の類の文字で書いてあって、区別すべきでありますのに、龍麿はこの二つの形を同じと考えたものでありますから、多少例外が出来て、二つの類の仮名が混じて用いられているように見えたものもあります。その他『万葉集』の通行本の訓が正しくないため、あるいは解釈が間違っていたために仮名の用法が乱れているように見えたものも沢山あるのであります。殊に『万葉集』巻十四の東歌《あずまうた》および巻二十の防人《さきもり》の歌において例外が取分け多いのでありますが、私の見る所では、これは東国の言語で、大和その他中央部とは違った田舍の言語であるがためにそういう例外が多いのであるという風に考えられるのであります。かように、特に違った地方の言語を用いたものは、全体として除外すべきものと思います。そういう風にして見て行くと、瘧Oすなわち右に述べたような仮名の区別を乱した例は非常に少なくなるのであります。絶対に一つも例外がないという訳
前へ 次へ
全124ページ中77ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
橋本 進吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング