て、前の「怒」の類の文字では書かず、別の類に属する。また助詞の「の」「登《ノボル》」「後《ノチ》」「殿《トノ》」などの「ノ」は「能」の類の文字を用いて、勿論《もちろん》以上の二つと別である。つまり、「怒」の類、「奴」の類、「能」の類、と三類にわかれているのでありますが、龍麿は「怒」と「奴」とを共に「ぬ」に当るものとし「能」だけを「の」に当るものとして「ぬ」に二類あるものと見たのでありますが、前申したごとく「怒」の類は平安朝以後の言語ではすべて「の」になっているのでありますから、これを「能」と共に「の」にあたるものとし、「奴」は平安朝以後も「ぬ」に当りますから、「の」が二類にわかれ「ぬ」は一類であるとする方が穏やかであろうと思います。
 右の「怒」の類の仮名で書かれている「野」「角」「偲」「篠」「楽」などの諸語は、『万葉集』の訓でも古くは「の」「つの」「しのぶ」「しの」「たのし」と読んでいたのですが、江戸時代の国学者が「ぬ」「つぬ」「しぬぶ」「しぬ」「たぬし」と改めたものです。ところが「奴」の類と「能」の類とは、昔から今まで「ぬ」と「の」とに読んでいます。「怒」の類を「ぬ」と読むことにし
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