れからはなおさら困難な道を取って、島内深くまだまだ入らなくてはならなかった。
 基隆の町で弟は汽車の玩具がほしいと言い出して聞かなかった。父と母とは雨のしょぼしょぼ降る町を負ぶって大基隆迄も探しに行ったが見当らず、遂に或店の棚の隅に、ほこりまみれになって売れずに只一つ残っている汽車のおもちゃを、負っている弟がめばしこく見つけ、それでやっと[#「やっと」に傍点]機嫌を直した事を覚えている。
 基隆から再び船にのって、澎湖島を経て台南へ上陸したのであるが、澎湖島から台南迄の海路は有名の風の悪いところで此間を幾度となく引返し遂々澎湖島に十日以上滞在してしまった。澎湖島では毎日上陸して千人塚を見物し名物の西瓜を買って船へ帰ったりした。漸くの思いで台中港へ着き、河を遡って台南の税関へついた。そこで始めて日本人の税関長からあたたかい歓迎をうけ西洋料理の御馳走をうけたりパイナップルを食べたりした。心配した弟の体も却って旅馴れたせいか変った様子もなく頗る元気であった。
 台南から目的地の嘉義県庁迄はまだ陸路を取って大分這入らねばならなかった。困難はそこからいよいよ始まった。汽車は勿論なし土匪は至るとこ
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