しまつたので径のへりに尻をむけたこの青瓢箪は、時々雨露をいつぱいふりため、青草を敷いて涼しげに太つてゆくのであつた。幸ひに朝夕潮あびのゆきかへりにこの畠径をぬける近所の子供らにももがれず、此の頃はむしろに敷きかへて先づ健在。
それに引かへ、垣根の方の長瓢は敷わらも吊もかけなかつたので、地面につけた尻の先がすこし黒いしみになりかけて来た。二三日前の朝、露つぽい草の間にかゞんで私は瓢を吊したり、わらをしいたりしてやつたが、今朝行つて見ると、折角きれいに捲きついた青い葉は、むざんにうらがへしに乱れ、瓢は誰かに頗るぐわんこに荒縄でうごきのとれぬ様しばりあげられてゐた。そして隣畠の南瓜の蔓が勢よく幾筋も瓢垣ねのあはひからこちらへ侵入してゐた。
旭はすでにポプラ並木を透して光り、征矢《そや》の如く輝き出し、大向日葵の濃蕊の霧がきらめく。市街の空は煤煙でにごりそめ、海上の汽笛にあはせて、所々の工場の笛がなりつゞける。私は更らに愛すべき千成瓢箪の垣へと歩を移し、きまりの様にかがみこんで眺め入る。
蔓毎にたれ下つた小瓢箪の愛らしさ。くゝり深く丸々と小肥りの青い瓢はうぶ毛が柔らかくはえてゐる。小さい蟻が這つてゐたり、時には暁雨の名残の小つぶな玉が汗をかいたやうにたまつてゐたりして一層愛着をまさしめる。子供らも毎日こゝへ必らずしやがみにきては、二十五なつてゐるとか、葉のかげにもう三つなつてたとか、数へてはたのしみにしてゐた。
更らにその横手の樹に、やせこけた一本の蔓が中位の瓢をつけてはひのぼつてゐた。沢山の瓢の中これが一番形も面白く俗ぬけがしてゐて、しかもひねくれすぎず、私の一番好きな瓢なのであるが、肥が足らぬのか木かげのせゐか一向ずば/\と成長せず、ほんとの一瓢きりなのである。
最後にもう一本。之れは子供のつくつてゐるので、二尺たらずのかはいゝ棚に小まゆ程のが、二つ三つ漸く最近になりはじめた。
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此の夏や瓢作りに余念なく
青々と地を這ふ蔓や花瓢
晩涼やうぶ毛はえたる長瓢
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数年前俳句をつくりはじめた頃、板櫃河畔の仮寓でも大瓢箪をつくつたが、その美事な青瓢は軒に吊るす中作りかたを知らず腐らしてしまつた。
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くくりゆるくて瓢正しき形かな
梯子かけて瓢のたすきいそぎけり
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今年は
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