分をのせて走らせている。行てには華かな芝居の色彩と享楽的な濃い幻想。これこそ華かな都会の情調の句である。

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(ホ)[#「(ホ)」は縦中横]三井銀行の扉の秋風をついて出し   静廼
(ヘ)[#「(ヘ)」は縦中横]雪をおとしてドサと着きけり丸善の荷   茅花
(ト)[#「(ト)」は縦中横]初鮭や部下のアイヌの兵士より   みどり
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 三井銀行の大建築の重い扉を押しあけて外へ出た刹那の感じを巧みにとらえている。(ヘ)[#「(ヘ)」は縦中横]は東京の丸善から北越の雪深い町へ或日とどいた荷物が、土間に雪をはらい落して配達されたと云う瞬間の光景を写生して、近代生活の一地方色を出している。初鮭の北海道らしい地方色。之等はいずれも事実を有るがままに切り取り来って写生した、近代生活の断片記録であり、自己観照からなる純客観句である。電灯戯曲手紙銀行人力車等も近代生活のうみ出した材料である。
 (2)[#「(2)」は縦中横] 近代風俗をよめる句[#「近代風俗をよめる句」に傍点]

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(イ)[#「(イ)」は縦中横]福引や花瓶の前の知事夫人   静廼女
(ロ)[#「(ロ)」は縦中横]雪道や降誕祭の窓明り   久女
(ハ)[#「(ハ)」は縦中横]水汲女に門坂急な避暑館   同
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 (イ)[#「(イ)」は縦中横]、新年宴会か何ぞの光景で、大花瓶を前の知事夫人を中心に笑いさざめく福引の興。
 (ロ)[#「(ロ)」は縦中横]はクリスマスの光景で、空にはナザレの夜の如く星が輝き会堂の明りが雪道にうつりそり[#「そり」に傍点]は鈴を鳴らして通る。かかる写実は確かに昔にない異国情趣である。(ハ)[#「(ハ)」は縦中横]は山荘がかった避暑館へ傭われた水汲女が急な門坂を汗しつつ、にない登る有様と階級意識。

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松の間の冬日にとまる電車かな   かな女
ストーブや棕櫚竹客の椅子にふれ   みどり
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 風景にさえ西欧趣味は浸みわたっている。絨毯をしきつめた応接間。赤くもゆる暖炉。飾鉢の棕櫚竹にふれる椅子の主客とモダンな談話に打興じる。

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種痘人の椅子をすべりし羽織かな   静廼
スイートピー蔓のばしたる置時計   かな女
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