かしれぬが(玉藻集は蕪村編ではなく死後門弟の編輯したものであるとの説もあるが左様なせんさくは茲では一切しない)、これでは格別山桜の景色もういてこず、時代を超越しての価値もない様だ。
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是でこそ命おしけれ山桜 智月
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智月の前二句の叙景句に比べると此句は美しい山桜の咲いているのを眺めてこれでこそ命はおしいもの。長いきは有がたいもの。何だか智月おばあさんのこんな繰言を聞いている様で、何の詩感も味う事が出来ない。
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入相の鐘にやせるか山桜 智月
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山寺の鐘のねにさそわれて花のおびただしく散りいそぐ梢の有様を鐘にやせるかと主観的に形容したところ。美の把握が不足し、感興の燃焼がまだ充分とぎ出されていないので、浅い句となっている。
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遠山に見えゐし花も散りにけり
さしながら早くも散るや山桜 和香女
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山づとに折りとってきたのか、山桜の花をさしている。その膝に、畳に、はらはらと早くもちりかかる花びらのつつましさ、嫩葉の色。山桜でこそ一層なつ
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