しさ嬉しさ。お互に笑顔と声をかけあって、直また上下に別れたが、不思議にそれからは元気が出て、一と息にどんどん登る事が出来たが絶頂で禰宜にあう時迄は遂に一人にもあわなかった。深い落葉の道をさっささっさと歩みつづけた。中宮附近迄はまだ紅葉がのこっていた。もう何の怖ろしさもなくいつものような澄みきった心境で深山の大気を自由に呼吸することが出来た。
 絶頂にたどりつくと、禰宜が出てきて、「よくお孤りでお登りでしたね。あなたで今日は朝から十人目です」という。神前にはまだ四五枚の紅葉が残っていたが、見渡す谷も南岳も北岳も悉く枯木の眺めとなってその上に、灰色の初冬の山々がつらなり遥かに九州アルプスの盟主久住が初雪をかぶってそびえているのを見出した時、私の心は急にはちきれる程の嬉しさでおどり上った。禰宜は雲仙を指し阿蘇を教えてくれた。お台場の如き偉大なあその外輪山をその噴煙をはるかに英彦の絶頂からはじめて眺めえた時の喜び! そして根子岳も、霧島も全九州の名山を悉く今日こそはじめて完全に眺めえた興奮に、私の幽うつや不安は皆けし飛んでしまった。
 上宮ではつい二三日前に初雪が降ったと、禰宜は私を霧囲いの傍
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