植物の美しさにみとれ、或は地上の落葉のいろいろに目を転じつつ一歩々々とよじ登ってゆく。こうした山中の体験の楽しさに二度三度と案内しった同じ山へ幾度も私は魅せられるように登って見た。だがさすがに呑気な其私も、十一月はじめ只ひとりで英彦へ登った時にはいささか閉口した。
山上の紅葉はもう散ってしまっていたので、登山客は殆どなく、その日の正午大鳥居で自動車を下りたものはたった私一人だった。いつもの通り奉幣殿上のくらい杉木立にさしかかった時には、どういうものか、女一人で、人気もない山道を登ってゆくのはあんまり大胆な、とつい気後れがし出すと、坂の中途で行ったりかえったり、立ちすくんでしまった。ぶきみな無人の静寂。深山の精といった感じがひしひし私を威圧する。思わずたじたじと十歩程もと来た方へ下りかけた私は、いや待て、折角ここ迄きて、上宮へのぼらず帰るのは残念だ。登ろう! こう心中に叫んで、祈願をこめつつ重い足をひいてよじ出した。三四丁こわいまぎれにとっとと上るとふいに頭上の木立のあたりから人間の笑い声がきこえてくる。急に元気が出て歩み出すと、下りてくる若い夫婦者に出逢った。その時の路傍の人のなつか
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