ゥ》さん! ……ポチは? ……」
と喘《あえ》ぎ喘ぎまず聞いてみた。
母は黙って此方《こちら》を向いた。常は滅入ったような蒼い面《かお》をしている人だったが、其時|此方《こちら》を向いた顔を見ると、微《ぼッ》と紅《あか》くなって、眼に潤《うる》みを持ち、どうも尋常《ただ》の顔色《かおいろ》でない。私は急に何か物に行当ったようにうろうろして、
「殺されたかい? ……」
と凝《じっ》と母の面《かお》を視た時には、気息《いき》が塞《つま》りそうだった。
母は一寸《ちょっと》躊躇《ためら》ったようだったが、思切って投出すように、
「殺されたとさ……」
逸散《いっさん》に駈て来て、ドカッと深い穴へ落ちたら、彼様《あん》な気がするだろうと思う。私は然う聞くと、ハッと内へ気息《いき》を引いた。と、張詰めて破裂《はちき》れそうになっていた気がサッと退《ひ》いて、何だか奥深い穴のような処へ滅入って行くようで、四辺《あたり》が濛《ぼっ》と暗くなると、母の顔が見えなくなった……
「炭屋さんが見て来なすッたンだッさ。」
という声がふと耳に入ると、クワッとまた其処らが明るくなって眼の前に丸髷が見える
前へ
次へ
全207ページ中58ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
二葉亭 四迷 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング