ヘ私ばかりでない、私の友人は大抵皆然うであったから、皆此頃からポツポツ所謂《いわゆる》「遊び」を始めた。私も若し学資に余裕が有ったら、矢張《やッぱり》「遊」んだかも知れん。唯学資に余裕がなかったのと、神経質で思切った乱暴が出来なかったのとで、遊びたくも遊び得なかった。
友人達は盛《さかん》に「遊」ぶ、乱暴に無分別に「遊」ぶ。其を観ていると、羨《うらや》ましい。が、弱い性質の癖に極めて負惜しみだったから、私は一向|羨《うらや》ましそうな顔もしなかった。年長の友人が誘っても私が応ぜぬので、調戯《からかい》に、私は一人で堕落して居るのだろうというような事を言った。恥かしい次第だが、推測通りであったので、私は赫《かっ》となった。血相《けっそう》を変えて、激論を始めて、果は殴合《なぐりあい》までして、遂に其友人とは絶交して了った。
斯うして友人と喧嘩迄して見れば、意地としても最う「遊」ばれない。で、不本意ながら謹直家《きんちょくか》になって、而《そう》して何ともえたいの知れぬ、謂《いわ》れのない煩悶に囚《とら》われていた。
四十二
ああ、今日は又頭がふらふらする。此様《こん》な日にゃ碌な物は書けまいが、一日抜くも残念だ。向鉢巻《むこうはちまき》でやッつけろ!
で、私は性慾の満足を求めても得られなかったので、煩悶していた。何となく世の中が悲観されてならん。友人等は「遊」ぶ時には大《おおい》に「遊」んで、勉強する時には大《おおい》に勉強して、何の苦もなく、面白そうに、元気よく日を送っている。それを観ていると、私は癪《しゃく》に触って耐《たま》らない。私の煩悶して苦むのは何となく友人等の所為《せい》のように思われる。で、責めてもの腹慰《はらい》せに、薄志の弱行のと口を極めて友人等の公然の堕落を罵《ののし》って、而《そう》して私は独り超然として、内々《ないない》で堕落していた。若し友人等の堕落が陽性なら、私の堕落は陰性だった。友人等の堕落が露骨で、率直で、男らしいなら、私の堕落は……ああ、何と言おう? 人間の言葉で言いようがない。私は畜生《ちくしょう》だった……
が、こっそり一人で堕落するのは余り没趣味で、どうも夫《それ》では趣味性が満足せぬ。どうも矢張《やっぱり》異性の相手が欲しい。が、其相手は一寸《ちょっと》得られぬので、止むを得ず当分文学で其不
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