》んで顔を曇らせる、といううちにも取分けてお政は不機嫌《ふきげん》な体《てい》で、少し文三の出ようが遅ければ、何を愚頭々々《ぐずぐず》していると云わぬばかりに、此方《こちら》を睨《ね》めつけ、時には気を焦《いら》ッて、聞えよがしに舌鼓《したつづみ》など鳴らして聞かせる事も有る。文三とても、白痴でもなく、瘋癲《ふうてん》でもなければ、それほどにされんでも、今ここで身を退《ひ》けば眉《まゆ》を伸べて喜ぶ者がそこらに沢山あることに心附かんでも無いから、心苦しいことは口に云えぬほどで有る、けれど、尚《な》お園田の家を辞し去ろうとは思わん。何故《なにゆえ》にそれほどまでに園田の家を去りたくないのか、因循な心から、あれほどにされても、尚おそのような角立った事は出来んか、それほどになっても、まだお勢に心が残るか、抑《そもそ》もまた、文三の位置では陥り易《やす》い謬《あやまり》、お勢との関繋《かんけい》がこのままになってしまッたとは情談らしくてそうは思えんのか? 総《すべ》てこれ等の事は多少は文三の羞《はじ》を忍んで尚お園田の家に居る原因となったに相違ないが、しかし、重な原因ではない。重な原因というは
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