ヘ《あわ》ててブルブルと首を振ッて見たが、それでも未《ま》だ散りそうにもしない。この「ガ」奴《め》が、藕糸孔中《ぐうしこうちゅう》蚊睫《ぶんしょう》の間にも這入《はい》りそうなこの眇然《びょうぜん》たる一小「ガ」奴《め》が、眼の中《うち》の星よりも邪魔になり、地平線上に現われた砲車一片の雲よりも畏《おそ》ろしい。
 然り畏ろしい。この「ガ」の先にはどんな不了簡《ふりょうけん》が竊《ひそ》まッているかも知れぬと思えば、文三畏ろしい。物にならぬ内に一刻も早く散らしてしまいたい。シカシ散らしてしまいたいと思うほど尚お散り難《かね》る。しかも時刻の移るに随《したが》ッて枝雲は出来る、砲車雲《もとぐも》は拡《ひろ》がる、今にも一大|颶風《ぐふう》が吹起りそうに見える。気が気で無い……
 国|許《もと》より郵便が参ッた。散らし薬には崛竟《くっきょう》の物が参ッた。飢えた蒼鷹《くまだか》が小鳥を抓《つか》むのはこんな塩梅《あんばい》で有ろうかと思う程に文三が手紙を引掴《ひっつか》んで、封目《ふうじめ》を押切ッて、故意《わざ》と声高《こわだか》に読み出したが、中頃に至ッて……フト黙して考えて……また読
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