でて、二ツの半円を描いて、左右に別れていた。顔の他の部分は日に焼けてはいたが、薄皮だけにかえって見所があった。眼《まな》ざしは分らなかッた、――始終下目のみ使っていたからで、シカシその代り秀でた細眉と長い睫毛《まつげ》とは明かに見られた。睫毛はうるんでいて、旁々《かたがた》の頬にもまた蒼《あお》さめた唇へかけて、涙の伝った痕《あと》が夕日にはえて、アリアリと見えた。総じて首つきが愛らしく、鼻がすこし大く円すぎたが、それすらさのみ眼障りにはならなかッたほどで。とり分け自分の気に入ッたはその面《おも》ざし、まことに柔和でしとやかで、とり繕ろッた気色は微塵《みじん》もなく、さも憂わしそうで、そしてまたあどけなく途方に暮れた趣きもあッた。たれをか待合わせているのとみえて、何か幽かに物音がしたかと思うと、少女はあわてて頭を擡《もた》げて、振り反ってみて、その大方の涼しい眼、牝鹿のもののようにおどおどしたのをば、薄暗い木蔭でひからせた。クワッと見ひらいた眼を物ケのした方へ向けて、シゲシゲ視詰めたまま、しばらく聞きすましていたが、やがて溜息を吐いて、静にこなたを振り向いて、前よりはひときわ低く屈みな
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