ひすぎたところはあるが、お前のいふことにも道理はある。しかし今日からはそれを一變させる、遊びごとの時代が過ぎて今は教育の時代が來たのだ。
ノラ 誰の教育です? 私のですか、子供のですか?
ヘルマー それはお前、兩方さ。
ノラ あなたの力では、私を教育してあなたに適する妻になさることはできません。
ヘルマー お前がそんなことをいふのか?
ノラ それはそれとして、私は子供を教育するのに相應はしいかしら?
ヘルマー ノラ! もう止せよ。
ノラ あなたご自身で、つい二三分前に、子供は私に托されないとおつしやつたぢやありませんか?
ヘルマー 激したはずみにつひいつたのだ。どうしてお前そんなことに拘はつてるのだ。
ノラ やはり私には子供は托されません――あなたのおつしやる通りです。さういふ問題は、私の力に及ばないのです。私にはそれより先に解釋しなければならぬ問題があるのですよ――私は自分を教育する工風をしなくちやなりません。それにはあなたの助けは役に立ちませんから、私獨りで始めます。私がこれ切りお別れするのは、そのためです。
ヘルマー (びつくりしてとび上り)何だと?――どういふ意味だか――
ノラ
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