横ぎる)おや、どうしたんだ? 寢室へは行かないのか、着物を着かへて――
ノラ えゝ、あなた、やつと着物を着かへましたよ。
ヘルマー けれども、どうしてこんなに遲く?
ノラ 今夜は私、寢ないのです。
ヘルマー でもお前――
ノラ (懷中時計を見て)まだそんなに遲くはありません。ちよつと坐つて下さいな。あなた、お互にいひたいことが澤山あるから(テーブルの一方の椅子にかける)
ヘルマー ノラ、どうした譯だ、その冷たいむづかしい顏付は――
ノラ 坐つて下さい。幾らか暇が取れるでせうから、私、澤山あなたに話したい事があるのですよ。
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(ヘルマーはテーブルの向側に腰を下ろす)
[#ここで字下げ終わり]
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ヘルマー 出しぬけに變ぢやないか、お前のいふことはさつぱりわからない。
ノラ おわかりになります? つい今夜まで――貴方には私といふ者がわからないし、私には貴方といふ者がわからなかつたのですよ。いゝえ、待つて下さい。私のいふことを聞いて下さればよいのです。私達は愈々最後の極りをつける時になりましたわ、あなた。
ヘルマー (大して氣づ
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