つた、お前がいふ通り、お前が世の中から消えてしまつたところで、それが私に對して何の役に立つ? 何にもなるものぢやないよ。あいつはそんなことに頓着なく、この事件を公にするだらう。さうなると私は共犯人と見られまいものでもない。世間では私がこの事件の蔭にゐてお前を教唆したのだと思ふのだ。そして、それはみんなお前のお蔭なのだ。お禮をいつておくぞ。結婚して以來、たゞもう大事にして可愛がつてやつたそのお前のお蔭なのだ。さあ、これだけいつたら、お前のしたことがわかつただらう。
ノラ (冷靜に)はい。
ヘルマー 實に、あるまじきことだ。事實とは思へない。しかしとにかく打ち合せをして片をつけなくちやならない。その肩掛けを脱いでおしまひ。脱げといつてるぢやないか。先づどうかして彼奴を宥める必要がある――どんなことをしても祕密は飽くまでも保たなくちやならない。それから私とお前とは、今まで通りにやつて行く。しかしそれは勿論世間體だけのことだ。お前もやつぱりこの家にゐるのは無論だが、子供の教育はお前には任されない。こいつは決してお前に任す譯には行かない――たゞ、こんなことを、あれほど愛してやつた女にいはなくちや
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