lliers de L' Isle Adam)と題するものである。フェリックスとエリザベットと、夫婦きりの劇で、エリザベットは夫の打算的な性向に堪え得ずして、終に家を棄て去るが、しかし間もなく歸つてきて、結末はめでたく收まる。その中に次のやうなエリザベットの臺詞がある。
「わからない人ね、私は生きたいのですよ。誰れだつて生を樂しみたいと思ふのが當然だとは思ひませんか? 私、ここにゐると息がつまるやうですよ、もつと眞劍なことがほしいのですよ、廣い天の空氣が吸ひたいのですよ! あなたのお札《さつ》が墓場へ持つて行けますか? どのくらゐ私たちは生きられるものだとお思ひなすつて?(間をおいて、考へ込んで)生きる?――私、生きたいとさへ思ふか知ら? 戀人! あなたさうおつしやつてね。お氣の毒さま、違ひます! 戀人なんか私にはありません、この後だつて決して持ちません。私は夫を愛するやうになつてゐました――御覽なさい――そして私が夫から求めたものは、ちらりとでもいゝから、人間の同情でした。それが今ではもう消えてしまつて、愛の誇りなんか私の血管の中で氷りついてゐます。あなたは私が何も知らないで、氣を揉
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