たまま黙っていた。
「米子と市子ちゃんはどうしたのかしら」
「踊りの稽古じゃないの」
「踊りの稽古にしちゃ長すぎますね。ほんとにしょうがない。また道草をくってぐず/\しているんだよ」
 時子がこう呟いて新しいタオルで肌の水気を柔かく吸い取らせている時、店前の街路で市子の厚味のある声が聞えた。
「ここですのよ、平一郎さん」すると米子の金属性な高い調子が顫えた。
「小母さんは朝から冬子姐さんと一緒に来ていらしってよ」
「ありがとう」それは平一郎であった。彼は学校が退けてから、忘却してもとの住居に帰って階下の主婦さんに笑われたのだ。彼は春風楼はよく知っていたが廓の街を一々知らなかった。それに彼はよく通りつけている坂を下りずに、別な入口の青柳の生えている広小路から這入りこんだので、途中で見当がつかなくなった。それ程にどの家も同じように紅殻格子の二階建だった。彼は小倉の白地の夏服にゲートルをつけた制服姿で、街の十字街に、疲れた足を休めていたのだ。すると右手の細い小路から、桃割に、白の奉書の根付をした、見覚えのある少女市子と米子が踊りの扇を持って出て来て、彼を見て微笑んで二人で何か囁いて行き過ぎよ
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