とを言えるわけじゃないわ」
「あっははははは、うそ/\、あたしと吉っちゃんがそっと襖の間からのぞいて見たら、二人ながら目をあけたまま一緒に寝ていたじゃないの。富ちゃんこそ着物を着替えてからでさえまた寝ているんだもの、あははははは」
「あたしと吉っちゃんですとさ、あははははは、吉っちゃんはいい男ね、菊ちゃんの大切の大切の――」
「富ちゃん、お止しなさいよ。丹羽さんこそ苦《にが》みばしって、会社員で御当世じゃないの。吉っちゃんなんかたかが西洋雑貨店の番頭さんですわ」
「そうでしょうよ、たかが雑貨店の番頭さんが、黄金の指環を買ってくれるのですから、大した番頭さんですよ」
「富ちゃん! そんなら、縮絞《ちぢみしぼり》の単衣を買ってくれたのは誰あれ※[#疑問符感嘆符、1−8−77]」
「あら、まあこの人はそんなことまで知っているの。まあこの人は本当に油断もすきもありゃしないのね」
 二人は笑いこけた。七月近かった。熱気が地より湧きたち、人身の底からじく/\汗がにじみ出た。
「菊ちゃん富ちゃん、お楽しみ! よく今日帰って来たのね。あたしもう帰って来ないのかと思っていたわ」
 川岸沿いの大きな鉄冷鉱
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