感じていたいろ/\の危惧の不安はこのとき一掃されてしまった。小母さんはわたしなぞが気をもまなくとも大事に遭っても平気なしっかりした信念を持っているのだからと考えた。彼女はそう思うと自分の感情がゆるやかに融けて流れるのを見た。
「女将さんが起きなさったから、いま会っておきなすった方がよくはないでしょうか」
「そう、その方がいいでしょうね」
「小母さんよりか二つ三つも年上でしょうか。つきあいのいい、悪い人じゃないのよ」
「これだけの家をたててゆく人だもの、なか/\普通な人間には出来ないことですからね」
 お光は仕事を止めて立ち上がった。茶の間にはまだ女将がいた。
「女将さん、この方ですの、わたしが随分お世話になった小母さんは。――またどうぞよろしくお願いいたします」
「誰さん――お光さんでしたね。わたしはとみ[#「とみ」に傍点]。女将さんなんて言うのは止して、これからお富さんお光さんで若い人の向うを張ろうじゃありませんか。おほほほほ。なあにあなた、自分の家のような気でのんびりしていて下さいまし。――土蔵の後ろで少し陰気ですけれど、中学へ出る息子さんがいらっしゃるそうで、勉強の都合もあるだろ
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