。そこへその青年が来合わして傘の中へ入れて家まで送ってくれた。路々恥かしながら話してみると、彼女の家とは裏つづきの紙問屋の息子だったときの悦び。二人は仲よくなり、そして娘は孕んだらしかった。孕んだのではないかしら、とひとり思い煩っているうちに、親達が縁組を結んでしまった。行先は同じ薬屋の問屋であった。(「何故あのときはっきり親達に言わなかったのでしょう。矢張り叱られやしないかしら、というようなことが恐ろしかったのよ、冬子さん、随分可愛いことを思っていたじゃありませんか」と小妻はよく言った。)紙問屋の息子が心変りがしたものと信じて遊蕩をはじめる。そのうちに娘は孕んでいたことが隠しきれなくなって離縁される。内気な小妻は、内気で弱い心の持主であるために、家を逃げ出してひどい目に遇いどおしで、娼婦の群に入ってしまったのである。内気な、弱い、すなおな魂と、神経質な敏感な傷められ易い肉体をもつ彼女に、娼婦の勤めは惨酷な地獄だった。一と夜を明かせば、次の朝には烈しい熱に苦しまねばならなかった。そして熱苦がおさまる頃にはまた夜の恐ろしい忌わしい惨虐がやって来た。機械になり切れない小妻にとってはそれは惜
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