。わたしは今ほんとにどうしたらよいのでございましょう
[#ここで字下げ終わり]
[#地から1字上げ]吉倉和歌子
なつかしき
大河平一郎様
[#改ページ]
第二章
春はすでに行き過ぎて、梅雨期の曇った空が北国の街に垂れ下がっていた。十五の大河平一郎は伸びゆく樹木のように健やかに成長して行った。母の献身的な愛のうちに、美しくて立派な冬子の愛のうちに成長して来た彼は、さらに愛する和歌子と深井とを獲た程に成長《おお》きくなったのだった。彼は習字や図画の手先の学科こそ並はずれて下手だったが、他の理論的な、もしくは情意的な学科には大きな能力の芽を現わすことが出来た。奔放な想像は外国地理の時間に、地球全体を自分の意志で調和あらしめ、和歌子が王妃で自分が帝王であったら実にいいと熱した。歴史の時間には時代興亡のあと、勝れた人格の生活のあとを自分の身に比べて、ある戦慄を止めることが出来なかった。あのように常に彼をして味気ない淋しさに堕す「貧乏」「家なし」「親なし」という哀れな境遇が彼には、大自然が自分にある使命を齎《もた》らしたしるしであるとさえ勇気づけられた。「自分は
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