すった。彼が朝飯をおえたところへ玉が呼びに来た。三畳の部屋の「秘密の道」から別邸の庭園わきの廻廊に出て彼は座敷に導かれた。一もと深く庭園の地に根を下した松の樹は、太陽の光熱を慕うように屋根の上に伸びあがっていた。部屋は八畳だった。次の六畳も(そこは前蔵になっていた)明け放されて、かなり広い贅沢な段通や屏風や柔らかい蒲団類の豊饒の中に、かの天野栄介は伸びやかに身を横たえていた。かつて金沢の古龍亭で受けた豪勢な威圧的な力は感じられなかったが、ゆたかな頬、高い額、額と頬を統帥するように高くのび/\と拡がった鼻、――口と瞳はこの朝は柔しく、はる/″\故郷を出てきた少年を見戍《みまも》りいたわっているようだった。お辞儀して、自分の面倒を見てくれようとする、この巨人(頭髪や頬にはまばらに白毛が交っている)から「温かさ」を感じたく思った。冬子は部屋には見えなかった。
「もっとこっちへおはいり」
「はい」平一郎は敷居を越えて彼に近寄った。玉は平一郎に座蒲団をすすめた。平一郎は敷かなかった。天野は軽く「おしき」と言った。それが決してわざとらしいのでなく、真実平一郎を天野と同等に待遇する意志から生じている
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