の世界から(ああ、そうであったのか)と新しい認識が光り出でた。彼は深井の背をさするのを止めて黙然と立った。複雑な悲哀が彼を囚えてはなさなかった。涙が彼の両目にも溢れて来た。(それを知らぬわけではなかった。深井、許してくれ、知らぬわけではなかった。)彼は深井の手を握って許しを乞うように堅くふった。
 自然の運行は無窮で始めなく終りはないであろうが、その廻り行く生成の姿は、ただ単調なリズムではない。ある時は全然無活動で平凡で単調であるが、ある時は嵐のように狂暴な力となって一時にあらゆる可能を尽さしめる。人間の運命にも、人が事件の過ぎ去った後で考えてみると、運命は実にそのリズムであることを信ぜずにはいられないことが多い。平一郎は和歌子の上京と結婚を知ってから、想いは未来の夢に燃えながら現実では空虚と暗鬱から到底逃れられなかった。――もし僕が二度この世に生まれて来るものなら、そして和歌子さんが同時に二度この世に生まれて来れるものなら、あるいは僕はこのままで思い切ることが出来るかも知れません。しかし僕には僕の一生は今のこの一つよりしかないものだと信じられます。僕は僕の生涯にどうあっても和歌子さん
前へ 次へ
全362ページ中288ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
島田 清次郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング