を紛らすために超意識的に「Kさん」と国語の教師を呼んでしまった。国語の教師は眉を顰めて大きい二重瞼で校長を見上げた。
「あなたの受持でしたな、大河平一郎というのは」
「は、そうですが、――」
彼は平一郎を想い浮かべた。すると、彼は平一郎を愛していることに気づいた。無論外に表わしはしなかったが、「国語の教師」Kの皮膚の下に未だ息づいている「文学失敗者」Kは平一郎のうちに胸を轟かすような芽生えを見つめていた。殊に平一郎があの美しい少年の深井を愛している浄《きよ》い少年らしい情操を発見して、「文学者K」はひそかに微笑せずにはいられなかったのである。彼は校長が特に平一郎を指して言い出したので少し驚いた。しかし校長の淋しい微笑が彼をも微笑ました。
「面白い気象の生徒ですな。貧乏ですから政治家になりますって言い出して、今度のコンミッション事件の攻撃をやりはじめましてな」
「そうですか。平常はおとなしい生徒ですが、ときおりこう燃えたって来るようなところがあります。非常に――」彼は少したじろいだが生まれた言葉は止める訳にはゆかない。「天才的な素質のある生徒です」
「誰です」と体操の教師が口を入れた。
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