愛さを一人は信頼と崇拝を無性に感じていた。たとえ貧乏であろうとも、献身的な母を家に、また、美しい勝れた少女と少年を自らの愛するものとして生活する少年平一郎は幸福である。幸福のうちに十五をおくり、十六の三月、彼は四年に進級した。彼は首席ではないが、悪い成績ではなかった。
 十六の春である。人間に恵まれた力の一斉に成長し奔騰する目覚ましい時期である。平一郎は自分ながら伸びた背丈や、張りきった肉付や、はっ[#「はっ」に傍点]と気づくと恐ろしく大きな喨々《りょうりょう》たる声音で話している自分の声や、高潮する熱情に驚いた。最も有望な、最も危険な時期が自分に来ていることは彼にも分った。しかし自分で制する智慮はまだなかった。講演会には必ず平一郎の名が現われ、野球の試合にも必ず彼はユニホームを来た姿を運動場の一隅にあらわした。じっとしておれない気がした。あらゆる危険に飛び込んで抜手をきって切り抜けて見せたい。そして彼のこの成長は深井にはやや怕《こわ》い気がしたが、和歌子には半年前までの無性に可愛いという感情よりも、彼のうちにある圧迫を強いる「男性」を見出さしめるようになった。十七の彼女はその短い袴や
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