えも一と呑みにしてしまったような自由な悠々たる身のこなしよう、まるでこの北野家というものが何の価値もないようなゆったりした態度、それは兄にとっては崇拝の念を喚び起こし、お光には恐ろしい気持を抱かせ、そうして綾子には「何を!」という反感と敵愾心《てきがいしん》を起こさしめていた。お光は綾子が凄まじい憎悪に緊張しながら彼を睨みつけていた、昨日から今日の様子を思い浮かべつつ、綾子が夕方頃見えなくなると共に、彼、天野一郎も見えなくなったのが心配でならなかった。
「憎ったらしい!」と綾子はその日の午後お光に言った。「人を見下したようなあの態度はどうでしょう。兄や父は何をあんなに珍重《めずらし》がる必要があるんでしょう。追い出してしまえばいいじゃないの※[#感嘆符疑問符、1−8−78]」その言葉からお光は綾子の苛々《いらいら》した、自分を傷つけられたものの悲しみを聞いた。同時に天野の注意が特に綾子に向けられていることも彼女は気づいていた。お光は一時間近くも門際に立って何を待つともなく待っていた。もう日は沈み、真暗であった。そうして真暗な夜に、星が村々の樹木に照り返っていた。ふと気づくと、すらりと背
前へ
次へ
全362ページ中194ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島田 清次郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング