何も読まない。頭が重いし、暑さが身体にこたえて」
 二人は浅い酒の酔いに頬をほてらしていた。お光も小さい盃に一杯注がれて身体中の血を熱くして来た。船頭のうたう出雲節がきれぎれに、
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西が黒けれあ雨とやあら、東が紅《あか》けれあ風とやあら、
千石積んだる船でさえ、風があわねばはせもどうる……
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と海の微風と共に送られて来た。
「綾子さんはたっしゃですか」と俊太郎が暫くしてたずねた。
「あいつはいつも元気で、家中自分のものにしていますよ。そうして――」
「そうして?」
「あはははは、君のことを言うときだけはおとなしくなるから妙です」
「そうか」と俊太郎はお光を見て微笑《ほほえ》んだ。嬉しいのだとお光は思っていた。
「お光さんもたっしゃらしくて結構ですな」お光はただ微笑むより返事の仕様がなかった。
「君は実際いい妹さんをもって結構だよ」と彼は言った。
「さあ――しかし妹なんていらないと思うね。ことに綾子の己を馬鹿にしきっていることは!」
「綾子さんか、そんなに邪魔なら僕がもらおうかしら」
 三人はいつしかお互いに全心の力で緊張し合わねばならなかっ
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