太郎は薄暗い湿った土蔵の中で彼女を捻じ伏せ擲りつけたか知れない。お信を殺すほどの痴《おろか》にもなれず、父を殺すだけの狂気も持てず、ずる/\お信の肉体に引きずられ、彼はやはり苦しい土蔵の秘密を秘密とする哀れな破廉恥な自分を見つめて二年の年月を送った。あるときはお信が懐妊して三月足らずで流産したとき、容太郎はその闇から闇へ往く生命が誰の子であるかを考えて狂いそうに悩みつづけた。「あなたの子よ。容太郎さん」お信のささやきを彼はぶちこわすように、「罰だ、罰だ! 誰の子だか分るものか」と考えた。そして同じお信の口から父の伝右衛門に、「旦那様、可哀いいことをいたしました」と言っている様子を想像すると堪らなくなった。こうした暗いじめ/\した恋であったが、何も知らずに伝右衛門が死んだ後に、容太郎とお信は忌わしい体感とともに残されたのであった。伝右衛門の死は二人に恐ろしい罪を犯していることの恐ろしさを、ひし/\と身にこたえしめた。一人にとっては実の父であり、一人にとっては実の夫であり、またその一人一人が実の叔母と甥である二人がこうまで愛し合わずには生きていられない事実。
伝右衛門の死後何よりも容太郎
前へ
次へ
全362ページ中164ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島田 清次郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング