上げる苦労を考えてごらんな」
 二箱――二千円。凡《あら》ゆる忍耐、凡ゆる屈辱、魂と生命の切り売り、その長い辛労の後ではないか。しかもさらに二千円の償いを取る理由がどこにあろう。二千円という金で価値づけられることも悲しいが、二千円を貪り取ろうとする楼主の心も憎い。
「二箱を欠けちゃ第一天野の旦那様にしてからが、みっともないではないでしょうかな」
 冷酷な、利害の要《かなめ》をしっかり把《と》って放さないような声である。
「それじゃ、ようございますわ。そう申し上げますから」
 主婦さんは天野の部屋へゆく道で冬子に、春風楼の楼主は「まだ訳の分る方」だといって聞かした。冬子は「身受け」が少しも嬉しくないとさえ思えた。とにかく楼主は冬子を「二千円で自由にして」そして「冬子によろしく」と言って帰って行った。

 この夜、二台の俥が春風楼の門口についた。天野と冬子であった。十時近い茶の間には菊龍とお幸と女将がいるだけだった。
「女将さん只今。天野の旦那様も御一緒にいらしって下さいました」
「これはまあお初にお目にかかります。さあ、どうぞこちらへ」
 白い浴衣がけの身軽な天野は二階へ上がった。上がり
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