れて市子は、一つ一つの振りにこもる感情の含蓄は理解出来ないまでも、熱心にやりはじめた。すると電話室の方でけたたましく電鈴《ベル》が鳴った。
「米子ちゃん」とお幸が米子に注意すると、奥にいた女将がすでに「あ、どなた」と出たので、踊りはまたはじめられた。電話は随分永く、踊りがすんでもまだ切れなかった。
「え、分りました。わたしの方でも粗相のないように致しましょう。それじゃちょっと待って下さい。今すぐ御返事しますから」女将は髪を掻きながら茶の間へ来て、冬子とお幸を迷うように見比べながら、「古龍亭から、今っから泊まる用意をして来てくれないかっていうんだよ。何んでも東京の大した実業家だそうだから、めったな事があっちゃ金沢の市街の体面にもかかわるっていうんだから」
「女将さん、わたし、ゆきます」
どうしてこの答が出たか。してしまってからも冬子自身にも了解出来なかった。つまり運命だったのだ。平常、お座敷を争ったことのない冬子であるだけにお幸にしても口出しが出来なかった。
「それじゃ冬子さん、行っておくれよね、あとから着物から何から持たしてやりますから。何んでも余程大したお方のようだったからそのつも
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