夢から奮い立ててしまった。白熱した昂奮が一しきり人々を内から照らしたのである。
 その朝、茂子は内よりの火焔で焼かれた枯木のような肉体を荒縄で縛られて、二十幾年の苦しい生涯を生きた人生から切り離されるために、暗い狭い護送馬車に乗せられて郊外の狂人病院へ送られて行った。同じ朝、悪い病患に癈《すた》り切った全身の汚血を、惨めな三十幾年の生涯の最後の夜に、恐ろしい憎むべき、とても大地の上における事実と信じられないような暴虐を受け、そのためにその呪われた汚血を一斉に流出して、血みどろの中に死んで行った小妻の死骸が、小さい棺に入れられて春風楼の裏口から火葬場へ送られて行った。平一郎もお光もこの暗い未明を、がたがた胴顫《どうぶる》いをしている妓達の中に交って永遠の訣別に涙ぐんだのである。
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     第四章




 一夜のうちに起きた茂子の発狂と小妻の死は春風楼にとっては大きな事件であった。地面に深い底知れぬ淵が口をあいた恐ろしさである。しかし「人気」ということの心理を知っている女将は、女達に一切の沈黙を命じた。女達も沈黙を命じられなくとも恐ろしくて言う気になれなかった。そして、ど
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