「ううむ、ううむ」という唸り声を聞いたように思った。しかし耳を澄ますと何も聞えなかった。すると又「ううむ、ううむ」と聞えた。ふと眼を横にやると、小妻のいるはずの床が空になっていた。彼女の全身が震撼した。茂子以上の茂子が全身にしみわたって来た。茂子はすっくと立った。そして巨人のようにのっしりのっしり歩いて、立ち止まって唸り声を聞き澄ましながら、のっしりのっしり、悠々と充実した歩みを続けた。唸りは廊下の方から聞えた。夏であるので、中庭には雨戸がいれてなかった。薄明りを受けた廊下の中央に何かがうずくまって「ううむ、ううむ」とうなっていた。茂子は歩みよった。(小妻か)と彼女は思った。そして茂子は肩に手をかけて起こしにかかった。ああ、その時、小妻の苦しみ悶えた恐ろしい死相がじろり茂子をみた。「ううむ!」歯が渾身の力でくいしばられている。全身がじわ/\湧く油のような汗でねち/\濡れている。細い青白い腕が最後の力をこめてわな/\と慄える。そして空間ににゅっ[#「にゅっ」に傍点]と片手を白くさしあげてがっくりもとのままに倒れてしまった。茂子は立っていた。すると足の裏がぬる/\と異様な温か味が感じられた
前へ 次へ
全362ページ中122ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
島田 清次郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング