「うむ」
 彼はお光にしたがって長い廊下、土蔵の前、暗いじめ/\した土蔵の横を通って、土蔵裏の一室に自分の古机を見出した。彼は寂しい気になった。洋服のまま、室の中央に仰向けになって深い溜息をもらした。彼には人生は堪えられない苦痛なものに思われたのだ。(こんなにまでしなくては、生きていられないのか!)と彼は幼い心に叫んだのだ。その苦しい沈黙と静寂を、室の横手で火の出るような哄笑が破った。声は米子と市子のたまらない、堪えきれなくなって発した笑いらしかった。大方忍び足で平一郎のあとをついて来て身をひそめていたのが、こらえきれなくなった笑いであろう。
「誰だ!」
 するとまた、たまらなそうな、熱情的な笑いが破れて、廊下を逃げてゆく乱れた足音が響いて来た。
「くそ、悪戯をしやがる」平一郎は腹立たしい、自分の領分へ侵入されたような不快を感じた。寂しくなって来た。自分のおちぶれたことが瞭《はっき》りして来て、彼は涙を止められなかった。
「えらくなるぞ! えらくなるぞ!」涙のうちから踴躍するは、ただこの言葉のみだった。
 彼は和歌子に送った。
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 ぼくの家は今日から廓の春風楼へ引
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