うて蒲団の上に起きていた。僕が前に坐ってもただ無言でいる。見ると母は雨の様な涙を落して俯向《うつむ》いている。
「お母さん、まアどうしたんでしょう」
僕の詞に励まされて母はようやく涙を拭き、
「政夫、堪忍してくれ……。民子は死んでしまった……私が殺した様なものだ……」
「そりゃいつです。どうして民さんは死んだんです」
僕が夢中になって問返すと、母は嗚咽《むせ》び返って顔を抑えて居る。
「始終をきいたら、定めし非度《ひど》い親だと思うだろうが、こらえてくれ、政夫……お前に一言の話もせず、たっていやだと言う民子を無理に勧めて嫁にやったのが、こういうことになってしまった……たとい女の方が年上であろうとも本人同志が得心であらば、何も親だからとて余計な口出しをせなくもよいのに、この母が年|甲斐《がい》もなく親だてらにいらぬお世話を焼いて、取返しのつかぬことをしてしまった。民子は私が手を掛けて殺したも同じ。どうぞ堪忍してくれ、政夫……私は民子の跡追ってゆきたい……」
母はもうおいおいおいおい声を立てて泣いている。民子の死ということだけは判ったけれど、何が何やら更に判らぬ。僕とて民子の死と聞い
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