も知らせたかったが、下女がいないからね」岡村は言い分けのように独《ひとり》で物を云いつつ、洋燈を床側に置いて、細君にやらせたらと思う様な事までやる。隣の間から箒《ほうき》を持出しばさばさと座敷の真中だけを掃いて座蒲団《ざぶとん》を出してくれた。そうして其のまま去って終った。
予は新潟からここへくる二日前に、此の柏崎《かしわざき》在なる渋川の所へ手紙を出して置いた。云ってやった通りに渋川が来るならば、明日の十時頃にはここへ来られる都合だが、こんな訳ならば、云うてやらねばよかったにと腹に思いながら、とにかく座蒲団へ胡坐《あぐら》をかいて見た。気のせいかいやに湿りぽく腰の落つきが悪い。予の神経はとかく一種の方面に過敏に働く。厄介に思われてるんじゃないかしら、何だか去年や其前年来た時のようではない。どうしたって来たから仕方なしという待遇としか思われない。来ねばよかったな、こりゃ飛《とん》だ目に遭ったもんだ。予は思わず歎息《たんそく》が出た。
岡村もおかしいじゃないか、訪問するからと云うてやった時彼は懇《ねんごろ》に返事をよこして、楽しんで待ってる。君の好きな古器物でも席に飾って待つべしとま
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