いて見ると、果たして亡き人の着ていた着物であった。ぐっしゃり一まとめに土塊《つちくれ》のように置いてあった。
「これが奈々ちゃんの着物だね」
「あァ」
ふたりは力ない声で答えた。絣《かすり》の単物に、メリンスの赤縞《あかじま》の西洋前掛けである。自分はこれを見て、また強く亡き人の俤《おもかげ》を思い出さずにいられなかった。
くりくりとしたつむり、赤い縞の西洋前掛けを掛け、仰向いて池に浮いていたか。それを見つけた彼の母の、その驚き、そのうろたえ、悲しい声を絞《しぼ》って人を呼びながら引き上げたありさま、多くの姉妹らが泣き叫んで走り回ったさまが、まざまざと目に見るように思い出される。
三人が上がってきて、また一しきり、親子姉妹がいってかいないはかな言を繰り返した。
十二時が過ぎたというので、経机に燈明を上げた。線香も盛んにともされる。自分はまだどうしてこの世の人でないとは思われない。幾度見ても寝顔は穏やかに静かで、死という色ざしは少しもない。妻は相変わらず亡き人の足のあたりへ顔を添えてうつぶしている。そうしてまたしばしば起きてはわが子の顔を見まもるのであった。お通夜の人々は自分の仕
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