捕えやりつつ擁護の任を兼ね、土を洗い去られて、石川といった、竪《たて》川の河岸を練り歩いて来た。もうこれで終了すると思えば心にも余裕ができる。
道々考えるともなく、自分の今日の奮闘はわれながら意想外であったと思うにつけ、深夜十二時あえて見る人もないが、わがこの容態はどうだ。腐った下の帯に乳鑵二箇を負ひ三箇のバケツを片手に捧げ片手に牛を牽いている。臍《へそ》も脛《はぎ》も出ずるがままに隠しもせず、奮闘といえば名は美しいけれど、この醜態は何のざまぞ。
自分は何の為にこんな事をするのか、こんな事までせねば生きていられないのか、果なき人生に露のごとき命を貪《むさぼ》って、こんな醜態をも厭わない情なさ、何という卑しき心であろう。
前の牛もわが引く牛も今は落ちついて静かに歩む。二つ目より西には水も無いのである。手に足に気くばりが無くなって、考えは先から先へ進む。
超世的詩人をもって深く自ら任じ、常に万葉集を講じて、日本民族の思想感情における、正しき伝統を解得《かいとく》し継承し、よってもって現時の文明にいささか貢献するところあらんと期する身が、この醜態は情ない。たとい人に見らるるの憂いがな
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