ってのほかのことですぞ」
予はなお懇切に浅はかなことをくり返してさとした。しかし予は衷心《ちゅうしん》不憫《ふびん》にたえないのであった。ふたりの子どもはこくりこくり居眠《いねむ》りをしてる。お光さんもさすがに心を取り直して、
「まァかわいらしいこと、やっぱりこんなかわいい子の親はしあわせですわ」
「よいあんばに小雨になった、さァ出掛けましょう」
雨は海上はるかに去って、霧のような煙のような水蒸気が弱い日の光に、ぼっと白波をかすませてるのがおもしろい。白波は永久に白波であれど、人世は永久に悲しいことが多い。
予はお光さんと接近していることにすこぶる不安を感じその翌々日の朝このなつかしい浜を去った。子どもらは九十九里七日の楽しさを忘れかねてしばしば再遊をせがんでやまない。お光さんからその後消息は絶えた。
底本:「野菊の墓他六篇」新学社文庫、新学社
1968(昭和43)年6月15日発行
1982(昭和57)年6月1日重版
入力:大野晋
校正:小林繁雄
2006年7月18日作成
青空文庫作成ファイル:
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