たからだよ」
「年をとるとお父さんだれでも死ぬのかい」
「お父さん、お祖母《ばあ》さんもここにいるの」
「そうだ」
予は思わずそう邪険《じゃけん》にいって帰途につく。兄夫婦も予もなお無言でおれば、子どもらはわけもわからずながら人々の前をかねるのか、ふたりは話しながらもひそひそと語り合ってる。
去年母の三年忌で、石塔を立て、父の名も朱字に彫《ほ》りつけた、それも父の希望であって、どうせ立てるならばおれの生きてるうちにとのことであったが、いよいよでき上がって供養《くよう》をしたときに、杖を力に腰をのばして石塔に向かった父はいかにも元気がなく影がうすかった。ああよくできたこれでおれはいつ死んでもえいと、父は口によろこばしき言《こと》をいったものの、しおしおとした父の姿にはもはや死の影を宿し、人生の終焉《しゅうえん》老いの悲惨ということをつつみ得なかった。そうと心づいた予は実に父の生前石塔をつくったというについて深刻に後悔した。なぜこんなばかなことをやったのであろうか、われながら考えのないことをしたものかなと、幾度悔いても間に合わなかった。それより四カ月とたたぬうちに父は果たして石塔の主人
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