んなこと考えると少しおかしいけれど、それはひとむかし前のことだから、ただ親類のつもりで交際すればえいさ」
予は姉には無造作《むぞうさ》に答えたものの、奥の底にはなつかしい[#「なつかしい」は底本では「なっかしい」]心持ちがないではない。お光さんは予には従姉《いとこ》に当たる人の娘である。
翌日は姉夫婦と予らと五人つれ立って父の墓参をした。母の石塔《せきとう》の左側に父の墓はまだ新しい。母の初七日《しょなぬか》のおり境内へ記念に植えた松の木杉の木が、はや三尺あまりにのびた、父の三年忌には人の丈《たけ》以上になるのであろう。畑の中に百姓屋めいた萱屋《かやや》の寺はあわれにさびしい、せめて母の記念の松杉が堂の棟《むね》を隠すだけにのびたらばと思う。
姉がまず水をそそいで、皆がつぎつぎとそそぐ。線香と花とを五つに分けて母の石塔にまで捧げた。姉夫婦も無言である、予も無言である。
「お父さんわたいお祖父《じい》さん知ってるよ、腰のまがった人ねい」
「一昨年《おととし》お祖父さんが家へきたときに、大きい銀貨一つずつもらったのをおぼえてるわ」
「お父さん、お祖父さんどうして死んだの」
「年をとっ
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