紅黄録
伊藤左千夫

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)成東《なるとう》の

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)茗荷|茸《だけ》の花が

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)薄暗い[#「薄暗い」は底本では「簿暗い」]
−−

 成東《なるとう》の停車場をおりて、町形をした家並みを出ると、なつかしい故郷の村が目の前に見える。十町ばかり一目に見渡す青田のたんぼの中を、まっすぐに通った県道、その取付きの一構え、わが生家の森の木間から変わりなき家倉の屋根が見えて心も落ちついた。
 秋近き空の色、照りつける三時過ぎの強き日光、すこぶるあついけれども、空気はおのずから澄み渡って、さわやかな風のそよぎがはなはだ心持ちがよい。一台の車にわが子ふたりを乗せ予《よ》は後からついてゆく。妹が大きいから後から見ると、どちらが姉か妹かわからぬ。ふたりはしきりに頭を動かして話をする。姉のは黄色く妹のは紅色のりぼんがまた同じようにひらひらと風になびく。予は後から二児の姿を見つつ、父という感念がいまさらのように、しみじみと身にこたえる。
「お父さんあ
次へ
全22ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
伊藤 左千夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング