、どうしても起きないから見て下さいというのであった。僕はまた胸を針で刺されるような思いがした。
二度あることは三度ある。どうも不思議だ、こればかりは不思議だ。僕はひとり言《ごち》ながらさっそく牛舎に行ってみた。熱もあるようだ。臀部《でんぶ》に戦慄《ふるえ》を感じ、毛色がはなはだしく衰え、目が闇涙《あんるい》を帯《お》んでる。僕は一見して見込みがないと思った。
とにかくさっそく獣医に見せたけれど、獣医の診断も曖昧《あいまい》であった。三日目にはいけなかった。間《ま》の悪いことはかならず一度ではすまない。翌月牝子牛を一頭落とし、翌々月また牝牛を一頭落とした。不景気で相当に苦しめられてるところへこの打撃は、病身のからだに負傷したようなものであった。
三頭目の斃《へい》牛を化製所の人夫に渡してしまってから、妻は不安にたえない面持《おもも》ちで、
「こう間《ま》の悪いことばかり続くというのはどういうもんでしょう。そういうとあなたはすぐ笑ってしまいますけど、家の方角《ほうがく》でも悪いのじゃないでしょうか」
「そんなことがあるもんか、間のよい時と間の悪い時はどこの家にもあることだ」
こうい
前へ
次へ
全36ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
伊藤 左千夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング