荒磯の興味
佐藤惣之助

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)悉《くわ》しくは
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 荒磯の春というものは、地上がまだ荒涼としている冬の内に、もうそろそろやって来ているのである。海草の芽は冬の内に生える。そしていよいよ陸上の春が来て、人間が春の磯遊びにゆく頃には海草もかなりのびて、新芽を喰いに来た魚族は更に深みへ移り、温い潮につれていろいろに移動する。
 その結果、この頃での磯釣は冬の内に初まる。十二月から翌年の二月へかけて、伊豆方面のブリ、ブダイ、イズスミ、クシロなぞの竿釣が行われ、初夏にはクロダイ、夏にはメイジダイ、ヒラマサ、秋も略同様なものが、三間から四五間の長竿で釣れるのであるから、近代の釣人がその強引にあこがれて、遠く出釣するのも無理はない。船でサヨリの掛釣とか、その他の魚の曳釣も行われるが、磯の興味は荒い岩礁や巌の上から、竿を満月にしぼって釣るところにある。
 従って荒磯を攻めるには、冬でも夏でもその附近の漁村へ一二日は滞在し、悉《くわ》しくは漁夫に案内させるのがよいが、船釣ばかりしている漁夫は、又案外に磯の海溝や岩礁の潮流や、魚の附き工合いを
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