埋もれ死滅した都の幽かな燈花にうつり
春の日のふかい大きい奧底の
きらびやかなる闇の力や時間の奇蹟にとざされて
青銅の室内へはひつてゆくやうに
美しい肖像や器具や
あるひは武器と衣裳と大きい寺院の
さらに重たい星色の墓や英雄の名でいつぱいの
このふしぎな村のもうろうたる鬼氣にふれて
そしてわれわれは又そこの夕暮をはなれる
からからといふ生の時計の馬車をかつて
村から村へ村から港へとかへりながら
もう一度日沒の下にある村村をかへり見て
われわれのふかい心の印象畫を
いつそうしつとりとした幽愁の名に染めながら。
[#地から1字上げ](鎌倉圓覺寺所感)
ここに輯めた詩に就いて
ここに輯めた詩は、こと/″\く最近の作で「華やかな散歩」と「荒野の娘」をかいてから後の、私の變化を語る一つの素描風な短章といつたやうな意味の小曲集である。私は過去の作を再び單行本にすることを好まないと同時に、未來に於て美しく出發せんとする若き人人につれて、たえず私の現在の眞只中から飛躍しよう出帆しようとする者である。私は私の固定を恐れ、定評を嫌ふ。さういふ意味でこの習作的短章も、「荒野の娘」から、この秋に出版する「海洋詩集」への過渡に於ける、春と夏との淡彩な鉛筆畫といふ風に見て頂けば幸ひである。
[#地付き](琉球へ漂流的旅行に出發する前日。)
底本:「日本現代文學全集 54 千家元麿・山村暮鳥・佐藤惣之助・福士幸次郎・堀口大學集」講談社
1966(昭和41)年8月19日初版第1刷
1980(昭和55)年5月26日増補改訂版第1刷
初出:「季節の馬車」新潮社
1922(大正11)年7月発行
入力:川山隆
校正:土屋隆
2008年10月21日作成
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