なって死んだのだ」
「ぼくらもだめかなあ」
 ぼうぜんと立ちつくす三人をはげまして、富士男は洞穴を出て、もとのぶなの木の下にきて地をほり、ていねいに白骨を埋葬《まいそう》した。
「ねえきみ」
 と富士男は感激《かんげき》の眼に涙をたたえて、三人にいった。
「日本は世界じゅうでもっとも小さな国だが、日本人の度量《どりょう》は、太平洋よりも広いんだ、昔から日本人は海外発展に志《こころざ》して、落々《らくらく》たる雄図《ゆうと》をいだいたものは、すこぶる多かったのだ、この山田という人は通商《つうしょう》のためか、学術研究のためか、あるいは宗教のためか、どっちか知らないが、図南《となん》の鵬翼《ほうよく》を太平洋の風に張った勇士にちがいない、それが海難にあって、無人境の白骨となったとすれば、あまりに悲惨《ひさん》な話じゃないか、だがけっして犬死《いぬじ》にでなかった、山田は数十年ののちに、その書きのこした手帳が、なんぴとかの手にはいるとは、予期《よき》しなかったろうと思う、絶海《ぜっかい》の孤島《ことう》だ、だれがちょうぜんとして夕陽《ゆうひ》の下に、その白骨をとむらうと想像《そうぞう》しえよ
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