、まったく白泡《しらあわ》のなかに、のまれてしまったのである。
「ひけッひけッひけッ!」
 モコウはまっさきにとんできて、綱をひいた、ゴルドン、サービス、ガーネット、いずれも死に物ぐるいになって綱をひいた。
 やがてふなばた近く、富士男のからだがあらわれた。
「残念《ざんねん》だッ」
 かれは波にぬれた頭をふっていった。
「しかたがないよ」
「うん」
 富士男は船にあがるやいなや、ばったりたおれたまま、ものもいえなかった。
 陸との交通は、まったく絶望《ぜつぼう》におわった。しかも正午《ひる》すぎになると、潮は見る見るさしはじめて、波はますますあらくなった。このままにうちすてておくと、満潮《まんちょう》にさらわれて、船が他の岩角にたたきつけられるのは、わかりきったことである。一同は不安の胸をとどろかしながら、だまって甲板《かんぱん》に立ったまま、ただ天にいのるよりほかはなかった。
「ちいさい人たちだけは助けたいものだなあ」
 富士男はやっとつかれから回復《かいふく》していった。
「ぼくらが助からないのに、ちいさいやつらが助かるかい」
 とドノバンはいった。
 このとき異様《いよう》な震
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