、残念! かれは木の根につまずいて、ばったりたおれた。
「しめたッ」
 コーブは折りかさなって富士男を膝下《しっか》にしき、懐剣《かいけん》をいなづまのごとくふりかぶった。瞬間! ドノバンは石のつぶてのごとく、からだをもってコーブのからだにころげこんだ。ドノバンのからだに押されて手がゆるんだ、すきをえた富士男は、すばやく立ち上がった、だがこのとき、ドノバンは一声アッとさけんだ。コーブはドノバンの胸を、一|突《つ》き突いたのであった。
 それも一しゅん、これも一しゅんである、フハンはもうぜんとおどりあがって、コーブの手にかみついた。
「ちくしょう! ちくしょう!」
 かれは一生けんめいにふりはらった、そうしてあとをも見ずに逃げ去った。
 イルコック、ウエップらは、凶漢《きょうかん》のあとを追うて発砲した。一、二発は手ごたえがあったが、すがたは緑雲《りょくうん》たなびく林のなかにきえてしまった。
「ドノバン! ドノバン!」
 富士男はたおれたドノバンを、しっかりとだきしめてさけんだ。
「しっかりしてくれ、ドノバン!」
 よべど答えず、答うるものは、森のこだまのみである。
 さきにドノバンが
前へ 次へ
全254ページ中236ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 紅緑 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング