が糸をのばしはじめた、富士男を乗せたたこは、じょじょにのぼってゆく、一同はただ黙然《もくねん》とあおいで、そのゆくえを見まもった、せき一つするものもない。
 すーとかごが地をはなれたとき、富士男はめまいを感じた、かれはウンと腹に力を入れて息をすった、さいわい、たこはかたむきもせず頭もふらず、きわめて動揺《どうよう》が少ない、かれはかごの四方をつった縄《なわ》をしっかとにぎった、と、ブルンとたこがうなって、ひとゆれがきた、からだが一しゅんブルブルとふるえた、それはおそろしいような、こそばゆいような、名状《めいじょう》のできない感じであった。十分間ばかりしたころ、たちまち物につきあたったようなひびきがあって、かごがゆらゆらとゆれた、富士男は時間からおして、たこの糸《いと》がのびをはったのだと知った。
 片手で縄《なわ》をにぎり、片手で望遠鏡をとって、四方を見おろした、湖水も、林も、岩壁《がんぺき》も、すべては墨汁《ぼくじゅう》をまいたようで、眼にはいるものはない、ただそれと知れるのは、島をかこむ海水と平和湖の水色ばかりである、北南西の三方はみな重々《ちょうちょう》たる密雲でとざされ、東の一
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